GPZ900R 2013/05
低速域の点火不良対策 |
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3月の中頃だった、横浜市内を走行中に交差点でエンジンがストールしてエンスト、危うくエンストゴケする寸前だった。
10万キロを走って一度もキャブレタを分解洗浄していない車体なので、数年前からアイドリングの回転バラつきや低速域でのアクセルのツキの悪さなどは体感していたので「そろそろキャブ周りをやらなければダメかな?」と思いつつ、その日は終わってしまった。
しかし、その日を境に3000rpm以下の回転では反応が鈍くなり、停止状態からの発進では明らかにトルク不足と思われるような感触が目立つようになった。
負圧式のキャブなのでスロットルバルブも兼ねたバキュームバルブの横の羽が摩耗して流速が少ない低下移転域ではうまく開いていない、またはパイロットジェットが汚れで目詰まりを起こしてスロットル開度が少ない低回転域では気化ガスを適切にシリンダへ送り込めていないのではとい二つの考えが脳裡に浮かぶ。
RZ250なら脱着も簡単だがGPZ900Rのキャブは面倒そう…ということでバラさず簡単に処置できる方法を探したところ、バキュームバルブの交換が思いついた。
早速、純正部品を発注し、バキュームバルブ4個を新品に交換した。
実は走行距離が6万キロの頃にアイドリング時の挙動がおかしくなることがあり、その時に価格を調べていた。
その頃から1個あたりのパーツ価格が2千円ほど上昇していたので、値段が上がる前に交換しとけばよかったかな…などと後悔しつつ作業にあたる。
バキュームバルブを外すにはキャブレタ上部の黒いカバーを外すだけでバキュームバルブが取り出せる。
一応、前後の向きがあるのでデジカメで元の状態を撮影しつつ、1つ1つ交換していった。
実は負圧式のキャブに手を付けるのは初めてだったりするのだが…
今まで使用していたバキュームバルブと新品のバキュームバルブを並べて観察するが、横に広がる羽の部分は確かに擦れているが見た目からは惨い状況とは思えない…が、10万キロ走行後のバルブであることに代わりは無いので交換しかないだろう。
むしろ、バキュームバルブを外した後のキャブレタ本体の中の汚れなどが気になり、キャブクリーナーを吹いて数分置いてから再びキャブクリーナーを吹き、バキュームバルブの羽の部分が接触するレールガイドの下側を中心にクリーニングを行った。
本来ならばキャブ本体を外して洗浄するのだろうが、手抜き対応でなんとかならないか足掻いてみる。
新品のバキュームバルブを装着し、ガソリンタンクも装着してエンジンを始動…アイドル回転付近のバラつきは感じるものの軽くアクセルを煽ってもツキの悪さが改善されたように思える、これはイケるか?と感じて近所を軽く試走してみた。
ダメだった...orz
エンジンが温まってくる頃には発進時のトルク不足と息つきが発生し、まともに加速できない。
バキュームバルブの羽の擦れによるバルブ動作の不良ではなかったようだ。
こうなると残る一つの予想であるパイロットジェットの詰まりが原因として浮上してくる。
意を決して?(そこまで大げさなものではなく、単に面倒なだけだが)キャブレタを外すことにした。
サービスマニュアルにはキャブを外す工程は一切書いていないのでネットで情報を探して作業にかかるが、アクセルワイヤーの劣化も同時に発見されたりして、初めて手を入れる箇所は相変わらず面倒だと痛感。
エアクリーナーボックスのダクトホースが固くなりすぎを感じつつ、キャブを外した。
ここでキャブレタクリーナー漬けにして一晩放置したくなるが、そこまで行うには各種ゴムホースを外さないといけないので今回は我慢、我慢…同調を取るなど面倒なのと、原因が曖昧になってしまうのが嫌だった。
ちなみに、このGPZ900RはA12なのでクーラント液がキャブレタボディまで巡回するタイプだ。
キャブレタを外す場合はクーラント液の配管も外さなければならないので全バラしないのであればキャブ内部に残っているクーランと液が漏れてこないように一時的に蓋をする必要がある。
バッテリー用のダクトホースなど、透明なチューブが丁度良い太さだったので、2cm程度で切断して片方を折り曲げてライターの熱で固着させて簡易的なキャップとした。
ワイヤーやホースなどを外して車体から取り外したキャブレタだが、アイドル回転の調整用ノブは外さずに装着したままとした。
キャブを逆さまにしてフロート室を全て開いてみると予想に反して内部は綺麗なままだったが、1ヶ月以上の放置が無く常にガソリンを使う状態だったことが幸いしたのだろうか。
流石にエアクリーナーボックス側のインテイク側は茶色に染まっているので色々なものを吸い込んでいるのがわかる。
今回の目的はパイロットジェットのクリーニングなので余計な箇所は手を触れずに作業を終わらせることにするつもりだったが、パイロットジェットは穴の奥深くに装着されており手持ちのドライバでは外すことが出来ないと思われた。(サイズの合わないドライバで無理に回そうとしてもジェットの頭を崩してしまい、取り外せなくなってしまう。そうなるとパイロットジェットをドリルなどで破壊しながら取り出すしかないが、これだけ奥深い場所に装着されているとドリルの歯を当てるにも苦労するし、最悪の場合はキャブへ大きな傷をつくってしまう。)
さて、どーしたものか…
ネットで調べた限りでも、このパイロットジェットの取り外しに使用する工具の話題が多く自分の場合も現物を見て手持ちの工具では無理と思った直後、脳裏に一つの工具が閃いた。
それはswitztool システムドライバー#07という+ドライバ3本/−ドライバ3本セットになったものだ。
10年以上前に仕事の都合で複数のサイズが一つにまとまったドライバーを必要として購入したものだったが、現在はRZ250のリアシートに車載工具として収まる日々を過ごしていた。(RZ250はエンジンの左右カバーに+ネジを使用しているのだが車載工具の+ドライバでは回せない事もあり、クラッチワイヤーが切れた時に現場で交換しようとしてもカバーが外せず難儀することがあるので、その対策に搭載している)
このシステムドライバー#07の−ドライバがパイロットジェットが収まっている穴と丁度同じサイズ、しかも先端は程々に厚みがありパイロットジェットを回すのに適切な条件を揃えていた。
少し力を入れて回しただけで初めて外すスロージェットは「パキッ」という心地よい音とともに一発で回ってくれた。
switztool システムドライバーの取り扱いをWebで調べたら株式会社ツインズなどで取り扱っているようだ。また、他のWebショップでは実売1200〜1500円ほどで販売されているようだ。
肝心のパイロットジェットのチェックだが、2番シリンダのパイロットジェットにゴミらしきものが付着していたが穴を塞いでしまうレベルの物ではなく、予想していたパイロットジェットの詰まりは発見されなかった。
パイロットジェットのチェックを終え、ついでにメインジェットのチェックを行ったが酷いのはこちらだった。
1番シリンダキャブのメインジェットが汚れで見事に目詰まり寸前の状態。
画像はクリーニング前とクリーニング後の同じメインジェットだ。
他のメインジェットもひどい目詰まりは確認されなかったが念の為に全てクリーニングした。
更にパイロットジェットのエアスクリューも全て外してみたが、先端は見事に汚れが付着しており、個人的な予想ではこれが低回転域の不調ではないかと期待させる汚れだった。
更にパイロットジェット・エアスクリューからフロート室に接続する経路と間にホールド側へ抜ける経路が塞がっていないかキャブクリーナーを吹き込んで貫通していることを確認。
但し、スロットルバルブ付近にある残りの4つの小さな穴についてはチェックできず。
これが心残りだったが目的のパイロットジェット周りの洗浄が終わったので他は手を付けずにキャブレタを車体へ戻した。
この車体へ戻す時に苦労したのがエアクリーナーボックスとのジョイントになるダクトの処理。
とあるブログでは内側から外へ開くように折り曲げてめくってしまい、そこにキャブを横から入れて装着すると楽とあったが、ゴムが硬化してしまいめくることができなかった。
なんとかキャブ本体を装着したものの次はキャブのIN側とダクトを密着させるためのスプリングバンドが戻せない、外側二つは比較的簡単に戻せるが内側二つは指が届かないためmに力が入りにくく30分以上かけてなんとか装着。
そしてエンジンを始動できるところまで組み上げ、セルモーターを回してエンジンを始動させてみる。
またダメだった...orz
始動直後でも判別できるほどアイドリングの回転に力が無い。
たまに500rpmほど高く針を持ち上げるが直後に下がってしまいバラつきを示すが、共通して言えるのはアクセルを煽ってもエンジンの反応は鈍く、依然と変わりない調子の悪さだ。(実際にガレージ敷地内で発進のテストをしてみるが3000rpm以下は使い物になるレベルではない)
キャブレタはジェット類は正常、バキュームバルブも新品に交換して、バキュームバルブの羽が通るレール部分もキャブを外した時にキャブクリーナとガソリンで洗浄してバルブの動きの妨げになるものが無いか確認を行っている。
また、キャブレタ洗浄後の動作確認でマフラーから何度かアフターファイアする音を聞いているが、これはバキュームバルブを新品に交換した後の試走でも減速時のギアシフトダウンで耳にしていた。
このことからもキャブレタからシリンダまでの燃料供給は機能しており、シリンダ内部での点火工程に問題があるのではという推測が有力になってくる。
また、高回転域では正常に走ることから低回転域と高回転域で差が認められ、回転域で点火をコントロールしている箇所…イグナイタ?という考えにたどり着いた。
イグナイタは1万キロ時点でデバイス不良によりエンジンの熱で温められると回転域に関係なく失火するトラブルで一度交換しているパーツ、前例もあるということで新たに発注することにした。
ここでイグナイタが原因ではなかったとしても元々が高価なパーツ、今後もGPZ900Rを乗るつもりでいるのでパーツ価格が上昇し続けていることからストックパーツとするのも悪くは無いという考えもあった。(言い訳?)
発注して数日後、届いた新品のイグナイタを装着してエンジンを始動させてみたが…
またまたダメだった...orz
挙動に変化は無く、別の意味で安定している(不具合が)。
逆に言えばイグナイタに異常は無く、このまま以前のパーツが使えるという考えにも至る。
取り寄せた新品のイグナイタはストックパーツになった。
ガソリンの供給、火花の供給タイミング、どちらも問題は無いとなると、残るチェックポイントはシリンダ周辺の点火動作の一点に絞られる。
プラグは新品に交換してあるので、プラグコード、イグニッションコイル、そしてエンジンそのもののアーシングなどだ。
プラグコードはバキュームバルブ交換時にプラグと共に新品コードへ交換しており、アーシングについては別件だがラジエタファンのセンサーが動作しない件でシリンダヘッドまでアースが取れていることを確認している。
ならばイグニッションコイルだということでサービスマニュアルに記載されているイグニッションコイルの抵抗値を計測した。
イグニッションコイルテスターなどという便利な物は持っていないので、サービスマニュアルに記載されている一般的な電気テスターによるコイルの抵抗値計測を行う。
サービスマニュアルに記載されていた抵抗値は、ハーネス側の1次巻き線が1.8〜2.8Ω、プラグコード側の2次巻き線が10〜16kΩとなっているが、1/4番シリンダ用のコイルは1次側が2.8Ω/2次側が18kΩと許容値を超えているものの決定的に異常な数字ではない。
2/3番シリンダ用のコイルは1次側が2.6Ω/2次側が計測不能…つまり0Ω、絶縁状態…。
コイルを車体から外し、プラグコードも取り除いてコイルの端子へ直接テスタ棒をあてるが何も反応がない。
1/4番シリンダ用のコイルはプラグキャップ越しでもすぐに数値が出たので、これは2次側のコイルが断線していると判断するしかなさそうだ。
イグニッションコイルの新品価格を調べると凡そ8千円、それが2個になるので1万6千円…イグナイタも新品で取り寄せしてしまったので値段に躊躇する。
中古相場はどうだろうかとネットオークションをチェックすると1個4千円ほどで入手可能なようだが、非常に気になったのが「実働車から外しました、チェックしていません」的な内容説明の出品ばかり。
価格は半分だが信頼性は半分以下…電装系でチェックされていない中古ほど信用できないものはないので新品を取り寄せることにした。(ノーチェックならジャンク扱いにして格安にすべきだと思うのだが…現物を手に取れる解体屋の感覚のままなのだろう)
届いた新品のイグニッションコイルはプラグコード一体型に仕様変更されていた。
今までのコイルはプラグコードが交換できたのでエンジンの熱で硬化しても問題は無かった、この場合は…あまり考えないことにしよう…
次の週末、イグニッションコイルを交換してエンジンを始動できる状態にしてセルモーターを回してみた。
またまたまたダメだった...orz
ということは無く、1000rpm前後のアイドリング回転数付近でも大きな回転のバラつきは無く、軽くアクセルを煽っても即座に回転が上がり以前のようなツキの悪さは感じない。
ガレージ敷地内で発進テストを行ってみるが、1000rpmからクラッチをつないでも回転がストールすることもギクシャクすることなくスムースに加速した。
その後、自宅近くを軽く試走してみるが信号待ちからの発進にトルク不足は感じず、また、2000rpm以下の回転域からアクセルを大きく開けて加速しても軽いノッキング音を響かせる程度で2000…3000…4000rpmと回転を上げていった。
どうやら主原因はイグニッションコイルの断線だったようで、アイドリング時のバラつきはキャブ側のパーツ劣化が手伝っていたようだ。
主原因が突き止められて改善もされたので、ついでにタペットも調整することにした。
シリンダヘッドカバーを開けてタペット調整を行うのも6万キロあたりから行っていなかったので、機会があれば手を付けておきたかった調整だ。
シックネスゲージで現在のクリアランスを計測するが大幅なずれは確認されず、まずまずの内容だったが、それでも微妙なバラつきがあったのでIN/OUTともにサービスマニュアルの許容値の下限値に統一しておいた。
また、イグニッションコイルの発注と同時にエアクリーナーボックスからのダクトもスプリングバンドと共に新品パーツを発注しておいた。
届いたダクトは二本の指で潰せそうなほど柔らかく柔軟性を持ち、タペット調整後にキャブを外してダクトの交換を行ったがダクトを内側から外へ開くように折り曲げてめくることは容易に行うことが出来た。
また、スプリングバンドが新品なのか、それともダクトが新品故にゴムが柔らかいのでスプリングバンドがひっかかりやすいかったからかは不明だが、30分近く時間をかけて装着したスプリングバンドの装着は僅か数分で完了してしまった。
ここで難儀する覚悟をしていただけに拍子抜けの感もあるが、作業を楽に終えられたことは喜ぶべきなのだろう。
キャブレタを外すついでにアクセルワイヤーも引き/戻しの両方を新品に交換しておいた。
このパーツも2万キロか3万キロ時点で念のために交換した記録しか無く、出先で困る前に交換しておいたほうがいいパーツだ。
近所の試走レベルではなく少しだけ距離を置いた場所まで往路は一般道のみ、復路は高速というパターンで週末の夜に走ってみたが、信号待ちのアイドリング回転も800rpmの場合でも安定しており、アフターファイアも発生しなかった。
信号が青になり、アイドリング回転数のままクラッチをつないでアクセルを開けてても回転の落ち込みも酷いノッキングも発生せず、エンジン回転相応の加速を行ってくれた。
2000rpm前後の回転数でパーシャルしながら巡航しても違和感(不調の時はこの回転数だとエンジンの点火がされなかったりするのでギクシャクする挙動を感じていた)を感じず、安定した走行に戻っていた。
キャブレタのジェット類洗浄を行ったからか、またはバキュームバルブの交換を行ったからか、要因は不明だが過去数年の挙動よりも安定して気持ちの良い挙動に改善されていた。
5万キロくらいまで下道ツーリングを頻繁に行っていたが、そのころの感触に近い。
実際にはバルブもピストン周りも消耗しているので劣化していると思われるが、今回の不具合発生時にイグニッションコイルの異常を最初に見つけていたらキャブの洗浄を行っていなかったので1番シリンダのメインジェットの詰まりやエアスクリューの汚れに気が付かず乗っていたであろう。
遠回りの修理となったが、結果的にキャブを降ろすきっかけになってくれたので良しとする感じだ。
ここで一つ気になったのが3月中旬にイグニッションコイルに異常が発生していたと思われるが、判断を迷わせた「5000rpm以上の回転数では問題ない」挙動だ。
ここから先は想像の域だが断線したのはイグニッションコイルの2次側、当然ながら1次コイル側には通電があるのでコイル内部には誘導電流が発生するが、それを受けとめる2次コイル側が断線してしまっている。
2次コイルの両端はそれぞれ別シリンダのプラグコードに接続されているので、断線された分の効率は落ちるが残されたコイルの巻数分だけ何らかの電流/電圧が発生して弱々しくもプラグへ火を飛ばしていたのではないかという推測だ。
試行錯誤で作業している合間にプラグの電極もチェックしていたが、かぶったり濡れたままという状況は一度もなく、着火していた形跡しか確認されていないので2次コイル側断線=全く火が飛ばないという状況は考えにくい。
しかし、本来の巻数分の誘導電流が得られていないので低回転域では自然着火に近い状態となり、点火タイミングがやや遅れた形になってピストンを押し下げる力が少なくなり、トルク不足の様な状態になっていたのではなかろうかと。(点火タイミングが遅れた状態が2気筒分だけ発生)
あくまでも素人の想像なのでプロな方々から見たら「そんな馬鹿な」という笑い声が聞こえてしまうかもしれないが、自分なりの整理ということで…
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